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B. コンスタン『アドルフ』

アドルフ (岩波文庫)

アドルフ (岩波文庫)

  • バンジャマン・コンスタン『アドルフ』岩波文庫、1965年。

フランスの自由主義者ロマン主義者コンスタンが1816年に発表した作品。

テクストは、刊行者がイタリアで会ったある外国人が宿に置き忘れた手記、という体裁を取っている。内容は当の外国人――アドルフ――の二十代のころの恋愛の顚末を記している。かれは恋愛をしてみたい気持ちから姻戚の P*** 伯爵の貞淑な妻エレノールを口説き、ついには望みを成就させるが、自らの激情が去るとともに彼女の存在を重荷に感じるようになる。他方でエレノールは彼女の地位を回復させるはずの P*** 伯爵からの復縁のさそいをもしりぞけ、変わらぬ愛ゆえにアドルフの元にとどまり続ける。やがて二人はエレノールの父の死を機に、財産権にかかわる訴訟のためポーランドに赴く。アドルフは彼の父の友人でかの地に駐在する T*** 男爵からエレノールと縁を切るようたびたび勧められ、ついにエレノールは離別を約するアドルフの T*** 男爵宛ての手紙を読んだことを契機に破滅する。

なるほど近代心理小説の先駆と呼ばれるだけあって、簡潔な筆致ながらアドルフの心理のはげしい揺らぎ、また内気さとそれゆえの冷徹な自己観察、あるいはエレノールの激情と「正しくはあるが博くはない」その才気、のはたらきを描いてあまりある。

ところで、作中のアドルフの語りではあらゆる災いがひとの行為、激情、優柔不断に頻繁に帰せられているにも関わらず、それは同じだけアドルフととりわけエレノールの身の上、経済的状況、に大きく規定されているように思われる。そしてもちろん男女関係の社会的規範をめぐる言説にも――「社会はあまりにも力強く、あまりにもいろいろな形を借りて現れるものです」(「刊行者への手紙」、153頁)。コンスタンの自由主義とアドルフの苦悩を結びつける読みはそれはそれで重要なのだろうけど、むしろ自ら語ることなく・ヒステリーのために亡くなるエレノールの側から読みなおしたとき、見えてくるものがあるのではないかと思う。